1172.【小説】公園の亀趺 第24話
2025/01/26
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公園の亀趺
第24話
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武杵園の隅にある亀趺は、今日もどっしりとそこに存在している。
武杵園は広いお屋敷があった跡地にできた大きな公園なので、高さ1メートルほどの人間の子どもくらいの大きさしかない亀趺はそれほど目立たない。
「亀さん、こんにちは。」
はるがやってきた。武杵園ができてしばらく経ったのではるも歳を重ねてきた。はるの娘・なつも大きくなり縁談が持ち上がることもあった。しかし、なつは慎重なようである。
「おや、はるさん。今日もいい天気ですね。」
「朝からこんなに暑くて、今日も大変です。」
「そんな中でも、わたしを掃除に来てくれてありがとうございます。」
はるは、定期的に亀趺をお手入れしている。一度は壊してしまうことも検討された亀趺だが、亀趺と会話をして父・武兵衛や兄・武之助の話を聞いていると亀趺にも愛着が湧いてしまい、武杵園ができる際にも亀趺を残したばかりか、愛情を持ってお手入れするまでになった。
「それじゃ、また来ますね。」
「はるさん、お気をつけてくださいね。」
はるは武杵園を後にした。
夏の時分であるので、今日も蝉が鳴き出した。
蝉の鳴き声・・・羽音・・・夏である。どんな季節であっても、この音を思い浮かべるだけでその時だけ夏に戻ることができる。それだけ、夏を象徴する音だ。
ある一匹の蝉が、亀趺の頭の上に止まった。
亀趺がある場所は武杵園の隅であることもあり塀があり、日陰になっている。そんな亀趺の表面は、時にはひんやりとしている。
「あら、蝉が涼みにいらっしゃいましたね。」
亀趺は心の中でそう呟いた。
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つづく
ちなみに亀趺は実在するものであり、こちらの記事でまとめております。

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