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1153.【小説】公園の亀趺 第15話

2025/01/17

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公園の亀趺きふ

第15話

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武兵衛は、川でいなくなった武之助を梅吉を一晩中探し続けたが、ついに見つけることができず朝が来てしまった。

「・・・。」

武兵衛は体力を使い果たしてしまい、膝をついた。

「旦那・・・!武兵衛の旦那・・・!すまねぇ!・・・本当に、すまねぇ・・・!」

梅吉が泣きながら武兵衛に謝罪した。

「梅吉、お前が謝ることはない。」

体力こそ使い果たしたものの、精神的には冷静を保っている武兵衛である。

「だ、だが・・・。倅の梅三郎がしっかり武之助を見ていればこんなことには・・・。」

梅三郎は家に帰って梅吉に川でのことの仔細を説明していたそうだ。梅三郎は武之助が一足先に家に帰ったものだと思っていたが、梅吉はそうではないと疑い、武兵衛のお屋敷を訪ねたのだ。そして、梅吉の予感は的中したのであった。

「すまねぇ・・・!」

梅吉はそれでも、武兵衛に頭を下げ続けている。

「いいんだ。もっと気をつけるよう武之助に言わなかった俺にも責任はあるのだ。こうなってしまったことはしようがない。とりあえず、それぞれの家に帰ろう。日が昇ってしまうまで、共に武之助を探してくれて、かたじけない。」

武兵衛はやはり冷静である。

「旦那・・・!」

こうして、二人はそれぞれの家路についた。

武兵衛は梅吉から離れて一人になった。それまでは冷静に振る舞っていたが、次第に腹の底から込み上げてくるものがあった。

それでも、お屋敷に到着するまでは平静を装った。

「やぁ武兵衛さん。朝早くからどうしたんだい?」

近所の呉服屋が武兵衛に声をかけた。

「たまには散歩をと思ってな。」

武兵衛は笑顔で返事をした。

「おお、いいねぇ!それじゃ!」

呉服屋は無論、武兵衛に何があったのかは知らない。

そうしているうちに、武兵衛は自身のお屋敷の門をくぐった。

門を閉じた後、それまで抑えていた気持ちが雪崩のように押し寄せてきた。

「・・・・・・・。」

武兵衛は声こそ出さないが、目からは滴るものがあった。それもどんどん出てきて、止まらなかった。

この後しばらくして、川の下流でとある少年が倒れているのが見つかった。

この少年の目からも、父親と同じものが流れていたと伝えられている。

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つづく

ちなみに亀趺きふは実在するものであり、こちらの記事でまとめております。

長崎市の松森天満宮で撮影した、亀趺(きふ)と呼ばれる亀の形をした土台。