138.小説『今日も、僕は歩いていく。』第9話 平和について、考える。
2023/06/10
※こちらのカテゴリでは自由な物語を書いていきます。こちらのカテゴリに書いてあることは基本的にフィクションです。登場する人名・地名・商品名などの名称は例外を除き架空のものです。
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僕は、路面電車に揺られながら鶴咲の街並みを観察している。鶴咲駅前電停を通りすぎた後は、北へと向かっていく。
野麻町(やままち)電停にたどり着いた。このあたりには商業施設や大きなホールがあり、いつも賑わっている。もともと、このあたりは地主の山本さんという方がいたので、山町と呼ばれていたようであるが、いつからかこの野麻町という表記に漢字が変更され、現在に至る。
ここにある商業施設『カンミナーレ鶴咲』の屋上には名物の観覧車があり、デートスポットとしても人気がある。ちなみにカンミナーレとはイタリア語で歩くという意味で、ここの内部にはスイーツ店が多く軒を連ねており、「甘味なれ」ともかかっているそうだ。つまりスイーツを楽しみながら、様々なお店をゆっくり歩いて観てほしい、という願いが込められているそうだ。
野麻町電停を通りすぎ、しばらくすると今度は鶴咲平和公園電停が見えてきた。鶴咲は戦争で甚大な被害を受けた場所として知られており、そのことをいつまでも忘れない意味を込めて、平和に関する公園や資料館などがこのあたりにはいくつもある。
僕も鶴咲に住んでいて、平和について考える機会が多い。僕個人はかなりの平和主義であり、暴力が好きではない。人間は、会話をすることができる。暴力という野蛮な手段に頼らずとも話し合いを重ねることで、それぞれの考えを確かめ合い、どう妥協していくかを議論することができるはずだ。
せっかくこの同じ世界に生まれてきた人間同士、できる限りお互いの人生をより良いものにしたい。そのためには妥協も必要だ。お互い、どれほど妥協すれば良いかを上手に交渉するのが、人間らしい問題解決といえるのではないか。
僕はそのような考えなので、考えが合わない人の考えもある程度尊重し、暴力による喧嘩は絶対にせず、話し合いによる問題解決ができないかをまず考える。
「おいおっさん、席譲ってくれよ!」
さっき野麻町電停あたりで乗ってきた18,19歳あたりの少年が話しかけてきた。明らかにマナーが悪いタイプの人間だ。このようなタイプの人間には、まともに話し合いしても議論がうまく進まないことが多い。もちろん、このようなタイプの人間がいてもよく、尊重はするが、僕とは相性が良くない。
僕は無言ですっと席を立ち、その場を離れた。
「ありがとう、おっさん!」
すると少年は満面の笑みを浮かべてお礼を言い、席に座った。なんだ、口は悪いが意外と良い奴なのかもしれない。僕も微笑み、手を振った。
よく見ればこの少年、足を怪我している。そりゃあできれば席に座りたいよな。譲れてよかった。ただ、口の悪さは改善の余地、大ありだ。
僕はこの一件から、ある人を、どういう人かをすぐに決めつけてしまうのは良くないと改めて感じた。やはりこのように、腹が立っても暴力など早計な手段に頼らず、ある程度話し合いをするとお互いどういう人かわかり、ある程度はわかりあえるのではないかと僕は考えている。
平和を実現するためには妥協も必要だが、その妥協点をどう折り合いをつけるかの、話し合いだ。いかん、平和についての考えで熱くなってしまった。
こうして路面電車は、終点の青原電停に近づいていくのであった。
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つづく
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