山田隆一公式サイト

134.小説『今日も、僕は歩いていく。』第7話 亀んまちアーケードを、散策。

2023/06/08

※こちらのカテゴリでは自由な物語を書いていきます。こちらのカテゴリに書いてあることは基本的にフィクションです。登場する人名・地名・商品名などの名称は例外を除き架空のものです。

...

今日は、さすがに普段傘をささない僕でもささなければならないレベルの大雨だ。こういう時は、息抜きの散歩も屋外ではできない。

こういう時僕は、亀んまちアーケードにやってくることが多い。鶴咲の市街地といえば、このアーケードだ。創業から百年近い老舗のデパート、亀ノ屋百貨店をはじめとする、鶴咲の名物店舗が軒を連ねている。

外国人観光客や、修学旅行生もこのアーケードに今日は来ている。晴れていたらもっと見物できただろうに、こればかりは天候に左右されるため、しょうがない。

往年の大ヒット曲『鶴咲の雨は飴の色』の影響もあり、雨のイメージがある鶴咲だ。今は梅雨なのでどの地域でも雨は多いのであるが、鶴咲は特に雨のイメージが強い。

「すみません、お手洗い、どちらありますか?」

外国人観光客のとある年配男性が、観光のため一生懸命覚えたであろう日本語で頑張って話しかけてきた。市街地あるあるだが、トイレを探すのには一苦労だ。地元の人ならどこかわかるが、初めて来る人だと探しづらい。

「That white building has the largest rest room around here.(あの白い建物にはこの辺で一番大きいお手洗いがありますよ。)」僕は語学に関心があるため、英語をある程度話せる。ネイティブではないので完璧とはいえないが、語学は使ってなんぼなので、こうやって使っている。

「Ah, thanks!(お、ありがとう!)」年配男性は笑顔でお礼を言った。

「Where are you from?(どちらからいらっしゃいましたか?)」

「Philippines!(フィリピンだよ!)」

「Enjoy your trip!(良いご旅行を!)」

「Thanks! See you!(ありがとう、じゃあね!)」

正味30秒ほどのやり取りだった。僕は話しかけられやすい風貌をしているようで、こうやってたまに道を尋ねられることがある。僕はコミュニケーションは得意なほうではないが、こうやって道を尋ねられることに関しては大歓迎だ。僕で良ければ、ご観光にいらっしゃる方々の力になりたい。

アーケードは全長500メートルほどあり、長い。往復するだけでも1キロメートルになる。特に寄る店がなくても、息抜きで散歩に出かけるには十分な長さだ。

また、亀んまちアーケードは、全長200メートルほどのサンタ・ルチア通りアーケードと交差している。こちらにも様々な店が軒を連ねている。この2つのアーケードの交差点は、待ち合わせ場所としてよく使われている。ここにもヴェネツル地区を作ったヴェネツィア出身の商人、ルイージ・モンテカンポの像がある。鶴丸子広場にある像に比べて小さく、また比較的最近できた像のため同じ人物の像ではあるが違った趣がある。広場の像が鶴丸子ルイージ、こちらの交差点の像が交差点ルイージの愛称で親しまれている。

僕はこの交差点を通りすぎ、再び自宅兼事務所へと歩いていくのであった。

...

つづく