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1260.【小説】或除者の独白 幼少期編 第7話

2025/03/07

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或除者あるのけものの独白

幼少期編

第7話

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いやぁ・・・、ここまで暗い話ばかりになってしまいましたね。実際、あまり良い幼少期ではなかったものですからご勘弁願います。

たまには、明るい話でもしてみましょうか。

私はこうやって人前で話をしたり、みんなで歌を歌ったりすることにはそれほど抵抗はありませんでした。当時の極端に口数が少ない私がそうだったのですから、今の私でも当時の私がそうであったことにびっくりです。

例えば、幼稚園でお遊戯会と呼ばれる様々な催し物が実施されるイベントがあったのですが、そこで劇がありました。私は自ら、セリフが多い役に志願したことを記憶しております。

私のようなおとなしく、自然に友達を作れるようなタイプではない子が自ら名乗り出たことに、当時の幼稚園の先生は驚いたかもしれません。

劇で役になりきることは、普段話をすることとは別物だと捉えていたのでしょう。普段の口数の少なさを考えると、大きなギャップのあるセリフ回しをしていたことを覚えています。

主役ではなかったのですけれども、劇の中で自らの役をしっかり演じきりました。

「真田尚一くん!かっこよかったよ!」

こう言ってくれたのは、当時幼稚園で同じ組だった女の子のミャンちゃんです。なぜか人の名前を呼ぶとき、いつもフルネームで呼んでいた子でした。逆にみんなはこの子をミャンちゃん、ミャンちゃん、と呼んでいました。

「・・・。」

やはり極度の人見知りだった当時の私は、何も言うことができませんでした。こう言われて嬉しかったことを今でも覚えているのに、当時はそれをうまく表現することができなかったのです。

演技の最中はセリフを比較的スラスラ言えて、表情も出ていたことでしょう。しかし普段はうまく話すことができなかったのです。ここにも「得体のしれない恥ずかしさ」が顕在していたのでしょう。その恥ずかしさの確かな原因はわからなかったものの、恥ずかしいという感情は鮮明にそこにありました。

「寺石光太郎くん!キラキラ輝いていたよ!」

ミャンちゃんは、寺石くんにも賛辞を送りました。そうです。寺石くんとは、幼稚園の頃からの付き合いなのです。

「ありがとうミャンちゃん!ミャンちゃんもかわいかったぜ!」

この頃から気さくで要領の良い人柄だった寺石くんは、私とは対照的に感情を大きく出してお礼を言いました。

「なんだ真田!お前も嬉しくないのか?」

「・・・。」

「へんなやつ。」

私は寺石くんに、この頃から「変わり者」扱いをされてしまっていました。

・・・、結局暗い話になってしまいましたね。当時の私はそういう時代だったものですから、仕様がありません。

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つづく

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