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1263.【小説】或除者の独白 幼少期編 第8話

2025/03/08

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或除者あるのけものの独白

幼少期編

第8話

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私は先にも述べたように、体育の授業が特にうまくいきませんでした。体力づくりのために体育の授業も有益ではあったのですが、私には周りについていくのが難しかったのです。

今回は、あの悪しきスポーツをご紹介いたします。球技です。

勘の良い方ならアレだと思い浮かんだかもしれません。そう、アレです。

ドッジボール

球技全般うまくできなかった私ですが、特に憎んだスポーツです。なぜこのようなスポーツを学校でやらせるのかが理解不能です。

もちろん、ドッジボールが好きでどんどんやっていきたい子についてはそれを否定しません。しかし、当時の私のような著しく球技が苦手な子にも無理やりこのような苦行をやらせるのは考えものです。

近年、そういった考えが広まっていきドッジボールを学校でやらせることを見直す動きも出てきているようでしたが、当時はそのようなことはなかったことを記憶しています。私も問答無用でドッジボールをやらされました。

「よっしゃ!思いっきり投げてやるぜ!」

ドッジボールでも、スポーツ万能の寺石くんが大活躍でした。投げるタイミングや速度が適切で次々とボールを当てていきました。

寺石くんは要領がいいので、女の子には優しくボールを当てていました。そういった優しさもあり寺石くんはいつもクラスで人気者でした。クラスで浮きに浮きまくっていた私のような除者とは正反対のような存在です。

「ホイ!ホイ!ホイ!」

寺石くんは内野にずっといながらボールを次々とリズムよく当てていきました。当たったボールはうまく跳ね返ってすぐにまた寺石くんの手の中です。

ボールをうまく投げることができなかった私は、いつもすぐに外野に出てあとは何もしない、という対策法を思いついておりました。こんな馬鹿馬鹿しいスポーツ、やってられるかと子どもなりに考えていました。もちろんドッジボールが好きな人はそれでいいのですよ。その好きなことを尊重します。でも私は大嫌いです。ドッジボールは、吐き気を催すほどの邪悪です。なぜあのような気持ち悪いスポーツが流行したのか理解に苦しみます。

しかしこの日のドッジボールでは、なかなか寺石くんが私にボールを当ててくれませんでした。その間ずっと寺石くんによる豪速球が飛び交います。

「うう・・・。」

当時極度の怖がりで泣き虫だった私は、泣いてしまいました。泣きながら頭を覆って守りの姿勢で固まっていました。

「真田、行くぞ!」

寺石くんがそう言ってから1秒もせずに、私はボールに当たりました。

寺石くんは力強く投げますから、当たると痛いのです。その痛みと同時に、内野での苦しみから解放されて外野に行き、ボールを当てられる心配がなくなったことの安心感も出てきますので複雑な気持ちだったことを今でも覚えています。

冒頭にも申し上げましたが、体育の授業は体力づくりのために大事です。スポーツが得意ではない私でも有益な部分はありました。

しかし、ドッジボールに関しては本当に理解不能です。あのようなスポーツをなぜ強制的にやらされるのか。人にボールを当てることが目的の攻撃的なスポーツは、平和的な私には本当に合わないものでした。

全員がやるのではなく、やりたい人がやるのであればいいのです。

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つづく

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