1201.【小説】魔法のスプリッツ 第8話
2025/02/08
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魔法のスプリッツ
第8話
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スプリッツが入ったグラスが2つ、電灯に照らされ光り輝く中にだんだんと運ばれていく。赤橙の液体が入ったそのグラスには、オレンジやオリーブの実もトッピングされている。
マルコはスプリッツ(どころか、お酒自体)を飲んだことがないのでワクワクが止まらない。それまでお酒に興味がなかったのだが今日はなぜか興味が出てきたのだ。
「ほら、いつものアペロール・スプリッツだよ。」
スプリッツは、赤系統の色をしたリキュールと、プロセッコと呼ばれるヴェネツィア周辺で生産される白のスパークリングワインを混ぜて作るヴェネツィア発祥とされるカクテルだ。最も一般的なアペロール・スプリッツと呼ばれるものは、アペロールというリキュールが使用されている。
「グラッツィエ、マリオ!」
「ねぇミケーレ、外で見かけるスプリッツと何か違う気がするよ。」
「だろ、マルコ?そりゃあ、ここのは特別だからな。」
マルコとミケーレの二人は、先ほど受けたジャルディーノ教授による中間テストの結果が気がかりで、それほど良い気分ではなかった。
「まぁ今日もいろいろあったが、乾杯しようじゃないか。」
「そうだね。」
「それじゃ、乾杯!」
「チンチン!」
「チンチン!」
チンチンとは、決していかがわしい言葉ではない。イタリアで乾杯をする際に一般的に用いられる言葉だ。乾杯の際にグラスを軽くぶつけ合うと、「チンチン」という音が鳴ることが由来という説もある。音が由来なので、日本で路面電車を「チンチン電車」と呼ぶことに通ずるものを感じる。
「さぁマルコ、飲んでみなよ。」
ミケーレがまだ飲まずに、マルコのスプリッツデビューの瞬間を見守っている。
マルコがグラスに口をつけ、その赤橙の液体を口の中に滑り込ませた。
その刹那、アペロールに含まれているオレンジやハーブの香りが広がっていった。プロセッコはスパークリングワインなので、炭酸も程よく感じることができ爽やかな味わいである。
「うおお!何これぇ!」
「な、うまいだろ?」
ミケーレも飲み始めた。
「そりゃあ街中でみんな飲んでるのもわかるよ。」
そう話していると、ルイージがやってきた。
「うちのスプリッツは、炭酸は弱めで飲みやすいと思うよ。」
スプリッツを作る際には炭酸水を適量加える。その炭酸水の強さや量により喉越しが決まってくることだろう。濃い味が好きな人は炭酸水を入れない場合もありそうだ。
「ということは、炭酸水は追加していないのかい?」
ミケーレが尋ねた。
「いや、入れてはいるんだが・・・、ここから先は企業秘密だ。怪しいもんは入っていないから安心してくれ。」
スプリッツの味は店ごとに異なる。特にミケーレが気に入るくらいのこの店『マリオ・エ・ルイージ』では、秘密のレシピがあることであろう。
「ミケーレ、ここのスプリッツは本当においしいね!・・・とはいえ初めて飲むスプリッツだから他との比較はできないんだけど。」
「マルコに気に入ってもらえてよかった。俺もよくここには来ているんだ。」
「もう中間テストの結果がどうであれ、乗り切ることができる気がする!僕をこんないい気分にさせてくれるなんて、ここのスプリッツは、魔法のスプリッツだよ!」
するとそこに、マリオがやってきた。
「魔法のスプリッツ!いいフレーズだね。ミケーレがこれまでもいつも頼んでたこれ、オレンジとオリーブをトッピングしたアペロール・スプリッツをうちではそう名付けよう!いいだろ、ルイージ?」
「名案だ、マリオ!魔法のスプリッツ!お客さんにいい気分になってもらえると、俺たちも店をやってて良かったと思える。ミケーレ、お友達を連れてきてくれてありがとう。」
上機嫌になったマリオとルイージは、しばらくするとまた来た。
「これはサービスしておくよ。」
おいしそうなピッツァ・マルゲリータ(マルゲリータピザ)がサービスされた。
「グラッツィエ!俺とマルコはお腹が空いていたんだよ。そろそろ何か食べ物も注文しようと思っていたところだった。」
「サービスまで・・・本当にいい気分になってしまったなぁ。」
マルコとミケーレはスプリッツを飲みながらピッツァに舌鼓を打ち、いろいろと語り合い、店を出て解散した。
・・・なお、中間テストの結果は二人とも不合格であった。期末テストで逆転しなければならない。だが、このスプリッツのおかげでマルコは乗り切れられそうである。
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つづく
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