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1184.【小説】公園の亀趺 最終話

2025/01/31

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公園の亀趺きふ

最終話

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亀趺は、武兵衛の頃から代々自身を管理してくれる存在の後継者に、武夫のひ孫の武空ぶあを選んだ。それにしても個性あふれる名前である。

「なぜ武空に話しかけようと思ったんだ?なぜ次は武空なんだ?」

武夫が亀趺に尋ねる。

「・・・。」

亀趺はしばらく沈黙した。その目には朝露が見える。

「・・・似ているんです。」

「似ている?誰に似ているんだ?」

「・・・武之助さんに。」

なんと、亀趺によると、亀趺自身ができたきっかけでもある武之助に武空がよく似ているそうだ。

「え〜!僕が武之助に似てるの?どれくらい似てるのかな!」

武空は嬉しそうだ。

「もう、瓜二つです。武之助さんの生まれ変わりかと思うほどです。初めて姿をお見かけした時からそう思っておりましたが、ついに本日、我慢できずに近くにいらっしゃった武空さんに話しかけてしまいました。」

「ほほう・・・俺のひいひいおばあちゃんのはるさんから少し話を聞いたことがある武之助さんは、武空にそっくりなのか。」

亀趺によると、本当に似ているようだ。武之助も武空も同じ武兵衛の血をひいているが、それを考えても不思議なくらい、同一人物のようである。

「武空さん、ちなみに亀はお好きですか?」

「そうでもないかな!うさぎと亀ならうさぎのほうが好き!」

「・・・、そうなんですね。」

亀趺の目元の朝露が乾いたようである。見た目はよく似ているが、中身は異なるようである。

「でも、嫌いではないよ!亀さんと話せて嬉しい!」

「・・・ありがとうございます。」

「俺ももう先は長くない。俺に何かあったら、武空、この亀さんを頼んだよ。」

「うん、ひいおじいちゃん!」

この令和の時分も、武杵園は地元の人々の憩いの場となっている。それを見た武兵衛や武之助、はるたちも空の上で微笑を浮かべているかもしれない。武杵園の創設に関わった梅吉も忘れてはいけない。

「せっかく公園に来てるんだから、スマホもいいけど、体を動かして遊びなさい!」

「うん!」

このような親子連れや、

「今度の期末テストやべぇ!俺に勉強教えてくれねぇか?」

「私にご飯を奢ってくれたらいいよ。」

「うおお、ありがてぇ!」

このような男女の学生や、

「ああ、やっぱりベンチで日なたぼっこは気持ちいい!」

いい天気の中、ベンチでゆっくりと寝転んでいる高齢男性など、老若男女が安らぐことができる場所となっている。

「武兵衛さま、今日も武杵園はにぎやかですよ。」

亀趺は今日も武杵園を訪れる人々を、その暖かいまんまるお目々で見守っている。

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公園の亀趺

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あとがき

この度は、『公園の亀趺』をお読みいただき、ありがとうございました。

ちなみに亀趺きふは実在するものであり、こちらの記事でまとめております。

長崎市の松森天満宮で撮影した、亀趺(きふ)と呼ばれる亀の形をした土台。

こちらは私の地元・長崎市にある松森天満宮の亀趺です。大きさや目といい、作中の武杵園にある亀趺のモデルとなったのはこの亀趺です。

長崎市の松森天満宮で撮影した、亀趺(きふ)と呼ばれる亀の土台の顔を拡大して撮影。

この亀趺も、まんまるお目々でかわいらしい風貌をしており、私が松森天満宮を訪れる際は毎回この亀趺のところにも行って、頭を撫でております。すっかり愛着が湧いてしまいました。

亀趺といい、神社仏閣や公園にある石碑や灯籠などは完成してから長い年月が経過しているものが見受けられます。その年号が読み取れるものを見てみると、明治どころかそれより前の江戸時代の年号が書いてあることもあり、それだけ大昔にできたものなのか、と感心することがあります。

それほど前、100年以上前から同じ場所に存在しているとなると、様々な時代の人々を見てきたということです。また、作られた当時から長い年月が経過しており、作った人々のことを知る人がもはやこの世からいなくなってしまいますが、それでもこうやって現在も存在していることに歴史的感動を覚えずにはいられません。

そのようなことを考えながら、亀趺を題材にした小説を書いてみました。

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あとがきまでお読みいただき、ありがとうございました。

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