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1166.【小説】公園の亀趺 第21話

2025/01/23

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公園の亀趺きふ

第21話

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はるは、亀趺を壊さないよう提案をした。

「おいおい、どうしたはるさん。さっきは壊してもいいような流れだったじゃないか。」

梅吉が驚いたように反応した。

「はる、やはり疲れてるんじゃないのか?大丈夫か?」

龍之進もはるを気遣う。

「大丈夫ですよ。考えてみると、この亀趺は父上と兄上の思い出が詰まっている気がしますから、残しておいたほうが良いと思ったのです。」

亀趺がはるの心に話しかけなければ、知ることがなかった事実である。亀趺ができた頃にははるはまだ幼かったし、それから武兵衛に亀趺ができた由来を尋ねることはなかったのだから。

「なるほど・・・、そういうことか。それに、こういったものは壊すと罰当たりと言われているしな。残そう、はるさん。」

街を歩いてみると、現代的な風景の中にも灯籠や石碑などがそのまま残されていることがある。長い年月が経とうとも、そのようなものは残しておこうという気持ちが地元の人々にもあるのかもしれない。

こうしてお屋敷は解体され、亀趺は残されたままこの場所で武杵園たけきねえんの整備が始まった。

「うわぁ、広いところだね!」

龍之進とはるの娘・なつが武杵園ができる様子を両親と見に来た。

「そうだろう。ここはもともと、なつのおじいちゃん、おばあちゃんがお母さんと暮らしていた場所なんだよ。」

「お母さん、そうなの?」

「そうですよ。龍之進さんのところに行くまでは、ここで暮らしておりました。」

両親は、思い出話を娘にいろいろとした。

「なつさん、こんにちは!」

亀趺がなつの心に語りかけた。

「あら、なつにも話しかけましたね。」

亀趺の声ははるにも聞こえるため、すぐさまはるが反応した。

「亀さん、こんにちは!」

不思議なことに、なつは驚くこともなく心の声で亀趺に返事をした。さすが、亀趺と話すことができた武兵衛の孫であり、はるの娘である。

「・・・、何を二人で笑っているんだい?」

亀趺の声を聞くことができない龍之進は、困惑していた。

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つづく

ちなみに亀趺きふは実在するものであり、こちらの記事でまとめております。

長崎市の松森天満宮で撮影した、亀趺(きふ)と呼ばれる亀の形をした土台。