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1162.【小説】公園の亀趺 第19話

2025/01/21

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公園の亀趺きふ

第19話

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武兵衛があの世にいる武之助のもとへ行ってからしばらくして、残されたお屋敷をどうするかという話になった。

生前に武兵衛が特に親しくしていた飲み仲間の梅吉と、この世にいる武兵衛の唯一の肉親である娘のはると、はるが嫁いだ夫の龍之進の3人がお屋敷の庭に集まった。

「武兵衛の旦那・・・突然のことだったから、遺言などは特に書き遺していないみたいだ。」

「そのようですね、梅吉さん。父上は、いつも今を生きているお方で、その先のことはあまり考えなかったものですから。」

「はるはいつも先のことをいろいろと心配してしまうが、それはお母さまに似たのかい?」

「多分そうだと思いますよ、龍之進さん。母上はかなりの心配性でしたから。」

はるは母親のきね、武之助は父親の武兵衛に、それぞれ特に似ていたようである。

「はるさん、このお屋敷はどうしましょうかい?」

梅吉が尋ねる。

「誰も住む人がいませんし・・・、いろいろと思い出もありますが、このお屋敷とはお別れしましょう。」

「それはつまり・・・壊してしまうのかい?いいのかい?」

「はい、梅吉さん。そして、広いお屋敷ですから跡地はみんなに使っていただけるようにしましょう。」

「はる、跡地をどう使ってもらうんだい?」

龍之進が疑問に思った。

「子どもからお年寄りまで、老若男女が安らいで過ごせる憩いの場になれれば良いと思います。」

まだ公園という概念が一般的でなかったこの時代にしては、はるは先進的な考えをしていた。

「そんなここに、名前とかはつけるのかい?」

梅吉が尋ねた。

「そうですね・・・。それでは『武杵園たけきねえん』はどうでしょうか?」

「武兵衛の旦那と、きねさんから拝借したか・・・。いい名だと思うぜ、はるさん。」

「そういえば、この隅にある亀の像はどうしようか?」

思いついたように、龍之進がはるに尋ねた。

「お屋敷と一緒に、この像も壊してしまってよろしいかと・・・」

そう言いかけた瞬間に、どこからか声がした。

「それはなりません!」

「あれ、どちら様でしょうか?」

「はる、何を言っているんだ?何か聞こえたか?」

「はるさん、突然どうした?」

その声が聞こえているのは、はるにだけのようである。

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つづく

ちなみに亀趺きふは実在するものであり、こちらの記事でまとめております。

長崎市の松森天満宮で撮影した、亀趺(きふ)と呼ばれる亀の形をした土台。