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1160.【小説】公園の亀趺 第18話

2025/01/20

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公園の亀趺きふ

第18話

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再び亀趺ができてからずっと後の時代、かつてお屋敷があった場所にある公園にて。

「それじゃあ、武兵衛という人が、息子の武之助のために君をつくったんだね。」

なぜ亀趺ができたかを亀趺自身に教えてもらった少年は、既にかつての武兵衛のように口を開けて喋らずとも心で亀趺と会話できるようになっていた。

「そうです。わたしをつくってくれたのは武兵衛さまです。こんな遠い未来にまでわたしが存在していることを知ったら、武兵衛さまはびっくりすることでしょう。」

「武兵衛さんのお屋敷は、その後どうなったの?」

「誰も住む人がいなくなってしまいまして、取り壊されてしまいましたよ。」

「お屋敷は壊されてしまったのに、なんで君は壊されなかったの?」

それにしても、好奇心旺盛な少年である。いろいろと知りたがる傾向にある少年は、今日は学校が休みなこともあり公園をうろついていたのだが、隅で見つけた亀趺が喋りだしたので長い時間話を聞いているのだ。

亀趺は、次のように答えた。

「わたしのような石碑や灯籠などは、壊すと罰当たりだと思う方が多くいらっしゃいます。そのおかげでわたしはお屋敷と運命を共にせずに今も長い間存在することができるのです。」

「でも、そんな長い時間いるのに君はきれいだね。」

「代々、わたしをお手入れしてくださっている一族がいらっしゃるのです。」

「それはどんな人たちなの?」

やはり少年の好奇心は止まらない。少年は日常的なことからなんでも気になることがいっぱいだ。

「それは先ほどもお話した、武兵衛さまの娘、はるさんの一族ですよ。嫁いだ君澤龍之進きみさわたつのしんさんとの間にできた子ども、そのまた子ども、そのまた子ども・・・、と現代にまで通じています。」

「そうなんだね!はるさんたちが、君を大切にしてくれているんだね。」

「おかげで今もわたしは、この丸い目を保つことができていますよ。」

「その一族の人たちの話も聞きたいな。」

「わかりました。それでは、お話しましょう。」

再び、亀趺は語り始めた。

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つづく

ちなみに亀趺きふは実在するものであり、こちらの記事でまとめております。

長崎市の松森天満宮で撮影した、亀趺(きふ)と呼ばれる亀の形をした土台。