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1143.【小説】公園の亀趺 第10話

2025/01/12

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公園の亀趺きふ

第10話

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再び、お屋敷に武兵衛が一人ぼっちになってしまった時分である。

「実はわたし、もともとは本物の亀だったんです。」

亀趺が武兵衛に話しかける。

「お前、亀だったのか?どうしてこの亀趺に魂?が宿ったんだ?」

「ある日、武之助さんがわたしを助けてくださったことがありまして。」

「ん?そんなことあったっけな。たしかに武之助は亀が好きだったが・・・。」

「このお屋敷の近くにある浅瀬に、武兵衛さまが武之助さんとはるさんと3人でおいでなさったときですよ。」

「・・・ああ!思い出した!いつものほほんとしている武之助が、亀が好きなこともあって瞬時に動いて亀を助けたことがあったな。確かひっくり返って動けなかったんだ。」

「その通りでございます。その時以来武之助さんとお会いすることはありませんでしたが、ずっと感謝をしておりました。長い間ひっくり返っておりましたから、このままずっと動けないのか、と想っておりました。」

亀趺に宿っている魂は、かつて武之助が助けた亀のものだった。

「俺はすっかりその亀のことは忘れてしまっていたが・・・、武之助が助けてあげた亀とこうやって意思疎通ができているのは不思議だ。」

「わたしも、武兵衛さまのお屋敷に亀趺がつくられることになり、更にそこに宿ることになるとは思いもしませんでしたよ。」

「・・・、そういえばそうだよな。」

武兵衛はある話を切り出した。

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つづく