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1138.【小説】公園の亀趺 第8話

2025/01/10

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公園の亀趺きふ

第8話

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武兵衛のお屋敷にある亀趺には、様々なことがお見通しのようである。

亀趺は、表情を変えずに武兵衛の亡き息子・武之助について語り始めた。

「武之助さんは・・・、泣いておりました。」

その刹那、武兵衛の眉間の皺が深くなり、真剣な表情となった。

「そうか・・・。」

武兵衛はそれ以上の言葉を発することができなかった。

「・・・ですが、今はあちらの世界で楽しく過ごしておりますから、ご安心ください。わたしに言えるのは、これだけです。」

一転、武兵衛は安堵の表情を見せた。

「おお・・・、楽しく過ごしているなら良かった。ありがとうよ。」

「武兵衛さまは、わたしを武之助さんを想ってつくってくださったのですよね。」

「そうだ。だからお前を見るたびに、武之助を思い出さなかったことはない。」

「武兵衛さまの武之助さんへの気持ちが、わたしに意思を与えたのですよ。わたしはこうやってつくられてから、すぐにしゃべろうと思えばしゃべれたのです。」

「初めて知った・・・。俺の気持ちがお前に届いて、ついにはお前を通して武之助があの世でどう過ごしているかを知ることができるとは。・・・お前をつくって、本当に良かった。」

「わたしも武兵衛さまにつくっていただいたおかげで、こうやっていろいろなことを知ることができました。本当にありがとうございます。」

「これからも、俺の話し相手となってくれるか?町に行けば話し相手はいるが、この広い屋敷に一人暮らしはやはり寂しい。」

「もちろんです。わたしでよろしければ。」

「あ、ありがとうよ・・・。」

お屋敷で一人で寂しかった武兵衛は、亀趺と話せる嬉しさにおいおい泣き出した。

「ただ・・・、そんなに大声を出してしまうと一人で何をやっているのか、近くに住んでいる人々に怪しまれますよ。」

「はは、それもそうだな。それじゃあ、どうすればいいんだ?」

「わたしのほうに意識を向けて、念じるのです。」

「こ・・・これでいいのか?」

武兵衛は何も話さずに、念じてみた。

「はい。こうすれば口を動かさずともわたしに伝わりますよ。」

「それじゃあ、今度からはそう話そう。これからよろしくな。」

「武兵衛さま、こちらこそよろしくお願いいたします!」

武兵衛は、ここ最近で一番の笑顔を見せていた。

...

...

つづく