1136.【小説】公園の亀趺 第7話
2025/01/09
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公園の亀趺
第7話
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武兵衛は、お屋敷で一人ぼっちで過ごしている。
・・・はずなのだが、先ほどからなぜか武兵衛を呼ぶ声がする。
武兵衛は恐る恐るその声がするほうへ向かってみると、声の主がわかった。
「お前だったのか・・・!」
「はい。十年ほど前に武兵衛さまにつくっていただいた、わたしです。」
声の主は武兵衛がお屋敷につくった亀趺だった。
「どうやってしゃべっているんだ?」
「武兵衛さまの心に直接語りかけています。」
それもそのはず、亀趺の口は全く動かない。無論、石でできているため動くはずもない。
「どうして今初めてしゃべったんだ?」
「ずっと前からしゃべろうと思えばしゃべれたのですが、武兵衛さまを驚かせてしまうと思って。それに、ご家族との時間もお邪魔してはいけませんから。」
亀趺は武兵衛たちに配慮をしながら、十年ほどの間、言葉を発さずにお屋敷の隅で皆を見守っていたのだ。
「でも、はるさんが嫁いでしまってついにはこのお屋敷に一人きりになってしまった武兵衛さまを見ていると、なんだかかわいそうな気持ちになってしまいましたので、ついしゃべってしまいました。」
「そうか、そうか。俺は俺なりに元気にやっていたが、やっぱり一人は寂しいもんだよ。いろいろ慮ってくれてありがとう。ところで、なんではるが元気でやってるかわかるんだ?」
「わたしには、遠く離れている人のこともよく見えるのです。」
言葉を交わすことができることにとどまらず、遠くの人のことも見渡せる。やはり不思議な亀趺である。
「じゃあ・・・」
武兵衛はずっと気がかりなことがある。それを亀趺に尋ねようか思案している。
「武之助さんのことですか?」
「そそそ、そうだよ!お前・・・、すごいな。」
やはり、亀趺にはお見通しのようである。
「武之助さんは・・・、」
亀趺は表情を変えないものの、神妙な口調で話し始めた。
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つづく
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