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1128.【小説】公園の亀趺 第3話

2025/01/05

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公園の亀趺きふ

第3話

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とある公園の隅にある亀趺きふが、その頭を撫でてくれた少年に話を始めた。

「わたしがここにつくられた頃、ここは公園ではなくてある方のお屋敷だった。」

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―亀趺によると、当時はここは公園ではなかったそうだ。

「わぁ、かわいい亀さん!」

お屋敷のお嬢さんが喜んでいる。

「おまえのまんまるとしたかわいい目を想像してつくってもらったのだよ。」

このお屋敷の主、高西武兵衛たかにしたけべえが娘に優しく声をかけた。

「たしかに、わたしの目とそっくり!」

娘は素直に父の言うことを受け入れた。

「・・・そうでもあるのだが、そうでもないのだがね。」

武兵衛は娘に聞こえないようそう呟いた。

この亀趺ができる前の年に、武兵衛の長男、つまりこの娘・はるにとっては兄にあたる武之助たけのすけがこの世を去っていた。まだ七つだった。

武之助は亀が好きだった。周りの子どもに比べると要領が悪く、ゆっくりとした動きをしていた武之助は亀に親しみを感じていたのだ。

そんな武之助のことを思って、武兵衛はお屋敷に亀趺をつくった。その亀趺が土台となっている上部にある石碑には、武之助への感謝の気持ちを込めた文章が書かれてある。

無論、難しい漢字で書かれてあるため幼いはるは読むことができない。武兵衛の言うとおり、自分にそっくりな目をした亀の像を作ってくれたのだと思い込んでいる。

「武之助・・・、これからも俺たちを見守ってくれ。」

武兵衛は心の中で、そう呟いた。

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つづく