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122.小説『今日も、僕は歩いていく。』第2話 鯉も、泳いでいく。

2023/06/01

※こちらのカテゴリでは自由な物語を書いていきます。こちらのカテゴリに書いてあることは基本的にフィクションです。また自由な展開で、突然終了するカテゴリの可能性が高いですが、あしからず。

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今日の僕は、川沿いを歩いている。この川は、歴史ある石橋がいくつも架かっており、歩くだけでも見応えがある。そして良い気分転換になる。

6月に入った。もう梅雨入りしているので、今日は曇り空だ。雨はまだ降っていないが、いつ降り出してもおかしくない。

この川では、個性豊かな鯉が泳いでいる。赤・白・黒・金など様々な色が組み合わさった、その鯉しかない柄を観察するのも、楽しみの1つだ。

こんな天気でも、観光客がいっぱいいる。修学旅行生と思われる学生たちもいる。さすがの人気スポットだ。晴れている日も良いが、このような曇りの日もそれはそれで味がある。僕は様々な天候の違いも楽しんでいる。

それにしても、今日は鯉がいつもよりいっぱいいる気がするなぁ。

「今日は雨が降りそうじゃな。」

お、ご年配の方が会話をしているのかな、と周りを見渡すも、すぐ近くには誰もいない。

「驚かせてすまんのぅ、わしじゃよ。この赤が多くて少し白がある柄の、大きな鯉じゃ。人間でいう仙人のように見えるかもしれんな、ガッハッハ。」

ん?鯉が僕に話しかけてるのか?この前の太陽の使いといい、この頃変だなぁ。まさかあれは夢じゃなかったのか?

「こ、鯉?言葉を喋れるのですか?」驚きのあまり僕は、鯉に返事をした。変な人だと思われる可能性はあるが、周りに人はいないから気にしないでおこう。

「この年になると人の言葉もわかるようになってくるのじゃ。というのは冗談で、わしは鯉の中でも特別な存在らしい。人間たちにわしらのことについて伝える役割を担っておる。」

「そ、そうなんですね。ところでなんで僕に話しかけたのですか?」

「あんたが真剣に歩いとったからじゃ。何を思い悩んどるのかはわからんが、考えすぎるのは良くないぞ。」

このご賢人、いやご賢鯉?は何もかもお見通しなのかもしれないな。いったい何年生きているんだろう。

「あの・・・おいくつですか?」僕は気になって、年齢を尋ねてみた。

「細かくは覚えとらんが、1500年くらいは生きとる。仲良くしとった人間もおったが、みんな死んでいったのぅ。いろんな人を見送っとる。」

せ、1500年・・・、すごい。とんでもない人生、いや鯉生経験値がありそうだ。

「真剣に歩くのもええが、たまには水にプカプカ浮かぶように、気楽に生きるのも大事じゃぞ。それがわしの長生きの秘訣じゃ、ガッハッハ。」

「あ、ありがとうございます。」

「それじゃあの~。」

僕がお礼を言うと、仙人、いや仙鯉は川の底へと向かっていった。喋る鯉がいるとは・・・。他の人に言っても信じてくれないだろうな。

よし、今日は肩の力を抜いて歩こう。アーケード街で買い物でもしようかな。

アーケード街に着くと、雨が降り出した。そういえば今日は傘を持っていくのを忘れていたな。これはすごい雨だ。そのまま外にいたらずぶ濡れだっただろうなぁ。仙人、いや仙鯉の言う通り肩の力を抜いたら、大雨を回避できたぞ。

いつも力を入れると、疲れる。たまには、息抜きも大事だなぁ。

...

つづく