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113.ビートルズ時代の、幕開け。最初のアルバム『Please Please Me』

2023/05/26

私は、ビートルズの影響で熱心にいろいろな音楽を聴くようになりました。こちらの記事にて、最もお気に入りのアルバムである『Rubber Soul』についての記事を執筆いたしました。これからは、基本的に時系列順にビートルズのアルバムの個人的感想を書いていこうと思います。

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それでは、今回はビートルズが1963年に発表した最初アルバム『Please Please Me』についての記事を執筆いたします。初期の頃はまだ日本ではあまり知られていなかったビートルズですが、このデビューアルバムを初めて聴いた発売当時のイギリスの方々はどのような印象を抱いたことでしょう。

こうやって発表から60年が経過した2023年の今でも聴かれ続けるアルバムになるとは、当時の人々は予想していなかったことでしょう。ビートルズの初期の作品は、50年代のロックンロールな曲調の名残といえる味わい深い曲調で好きです。『Hey Jude』や『Let It Be』など、ビートルズが語られる場合は後期の楽曲が語られることが多く、私も後期も大好きなのですが、個人的には初期も同じくらい好きです。

以下から、曲ごとの感想に入ります。私は音楽の専門家ではなく、豊富な知識があるわけではありません。間違いもあることでしょう。平成生まれ、29歳のある一般男性の一意見として軽い気持ちでご覧ください。

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1.I Saw Her Standing There

「One, two, three, four!」の勢いが良い掛け声からこの楽曲は始まります。最初のアルバムにして、最高のスタートを切っています。この掛け声のあと、威勢の良いロックンロールなイントロが始まります。

歌詞も、若い頃ならではの甘酸っぱい恋心が歌われています。最初のアルバムにふさわしい、若々しさがこの楽曲からは伝わってきます。踊りがテーマとなっている歌詞にふさわしい、聴いていると自然と体が動き出すような楽曲です。

それにしても、この頃から自作でこのような素晴らしい楽曲を作っていた「レノン=マッカートニー」コンビは恐ろしいですね。リードボーカルのポール・マッカートニーは、やはりこのような力強い歌声が合いますね。

個人的には、「Mine~♪」という部分が裏声の利いた味わい深い歌声で好きです。

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2.Misery

ノリノリな1曲目と打って変わって、2曲目のこちらは哀愁を感じる楽曲となっております。メリハリがついていて良いですね。今となっては主流となったバンドメンバーが自分で楽曲を制作することが珍しかった当時、1曲目に続いてこちらも自作だと知った当時のリスナーは、曲調の幅広さに感心したのではないでしょうか。

曲調の幅広さといえば、私も大好きな黒縁メガネがトレードマークのミュージシャンであるバディ・ホリーを思い出します。バディ・ホリーが組んでいたバンド、クリケッツ(コオロギ)にあやかって、ビートルズ(カブトムシ)というバンド名が命名されたらしいエピソードは有名ですね。

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3.Anna(Go to Him)

ビートルズは、自作オリジナル曲はもちろんカバー曲も本当に秀逸なバンドです。こちらの楽曲は、アーサー・アレキサンダーという方が発表した楽曲のカバーです。原曲は大きなヒットではなかったようですが、ビートルズがカバーしたことにより世間に広く知られる楽曲となりました。アーサー・アレキサンダーはアフリカ系アメリカ人の方ですので、ソウルやR&Bといった要素を感じて原曲もビートルズ版と同じくらい好きです。

ジョン・レノンがこの原曲を聴いて気に入ったことにより、ビートルズがカバーすることになったようです。したがって、ビートルズ版ではメインボーカルをジョンが担当しています。このような名曲を取り上げてくれて、本当にジョンには感謝です。

こちらの2曲目の『Misery』に引き続いて、切ない楽曲となっております。場面を容易に想像することができる、シンプルな歌詞でありながら難しい恋愛関係が描かれており、切なさに拍車をかけています。

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4.Chains

こちらも引き続きカバー曲です。元々はクッキーズというアメリカの女性R&Bガールズグループの楽曲のようです。こちらの原曲は聴いたことがなかったので聴いてみましたが50年代後半から60年代前半にかけて流行した、いわゆるオールディーズと言われる曲調を感じました。オールディーズが挿入歌として使われている映画『アメリカン・グラフィティ』の舞台として知られる時代ですが、この時代の楽曲には温かみを感じますね。クッキーズ版の『Chains』、初めて聴きましたがこちらも好きになりました。

この楽曲を制作したのは、ジェリー・ゴフィンとキャロル・キングのコンビだったのですね。このコンビの楽曲では、現在でもよくカバーされているリトル・エヴァの『The Loco-Motion』や、私がオールディーズの中でも特に名曲だと思うシュレルズの『Will You Love Me Tomorrow』などがあります。キャロル・キングはその後シンガーソングライターとしても活躍しますが、『Tapestry(邦題:つづれおり)』は本当に名作のアルバムですね。現在のロックやポップスの礎となったアルバムのうちの1つと言って良いと私は考えます。こうやって話題に出すと久々『Tapestry』を聴きたくなりました。おそらく本記事執筆後に聴くことでしょう。この『Tapestry』には、『Will You Love Me Tomorrow』のセルフカバーも収録されています。作者のキャロル・キング自身も、お気に入りの楽曲なのかもしれませんね。

『Chains』の原曲はオールディーズを感じる曲調ですが、ビートルズ版は、ビートルズらしいロックな曲調となっております。原曲の雰囲気を尊重しながら、ビートルズらしさが出ている秀逸なアレンジです。

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5.Boys

カバー曲が続きます。こちらはまさに先ほど話題に挙げたシュレルズの『Will You Love Me Tomorrow』がA面になっているシングルのB面の楽曲です。原曲を聴いてみましたが、やはりオールディーズは良いですね。元々オールディーズが好きだったので、私はこのアルバムがビートルズの初期の中では特に好きなのかもしれません。

ビートルズ版では、主にドラムスを担当しているリンゴ・スターがメインボーカルを担当しています。ビートルズでは最年長ながら可愛らしい顔をしているリンゴですが、歌声は太くて力強いですよね。こちらもやはり、原曲の雰囲気は尊重しながら、ビートルズらしいロック色が強いアレンジとなっております。

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6.Ask My Why

ここで再び、「レノン=マッカートニー」コンビ作によるオリジナル曲です。「I love you.」のフレーズが印象的です。イントロの雰囲気から心を掴まれますね。やっぱりジョンのメインボーカルは、しっとりとしたこのような曲調に合いますね。

2曲目の題名となっている「Misery(みじめ・悲惨)」という単語がこの曲でも出てきますが、良いアクセントとなっております。個人的には切ない雰囲気のアウトロも好きです。このアウトロからの・・・

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7.Please Please Me

先程の楽曲の切ないアウトロから打って変わって、明るいイントロでこの楽曲は始まります。嬉しい気持ちが伝わってくる曲調で、本当に好きです。アルバム名ともなっているこの楽曲のタイトル『Please Please Me』も面白くて好きです。最初のpleaseは、お願いの意味合いで、2番目のpleaseは喜ばせるという動詞で、教科書的には「私を喜ばせてください」といった意味合いになります。ビートルズ的には、「僕を喜ばせてくれないかな」と私は訳しています。

このようなスペルが同じで異なる用法をする単語を連続して使う用法、好きです。『That that is is that that is not is not is that it it is』という、ネイティブでも意味を理解するのに時間がかかりそうな文章もあり、興味深いです。

余談はさておき、この楽曲の特に印象的な部分は、「Come on!(Come on!)」というメインボーカルのジョンと、コーラスのポールとジョージ・ハリスンの掛け合いです。演奏しているメンバーも本当に楽しそうで、こちらも笑顔になります。アルバムと同名のこの楽曲でA面が終わるのは、なんか粋ですね。

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8.Love Me Do

B面は、デビューシングルでもあるこの楽曲で始まります。ジョンによるハーモニカが特徴的なイントロで始まります。ビートルズらしい、コード進行も本当にシンプルな楽曲です。歌詞も簡単な単語の組み合わせです。こんなにシンプルなのに魅力がある楽曲となっているのは、彼らの才能が初期から凄まじいものであったことを思わせます。

この楽曲は、リンゴが新たに加入する前のドラマー、ピート・ベストによるドラムの演奏によるバージョンがあることも知られています。しかし、プロデューサーのジョージ・マーティンがピートの演奏に満足しなかったためピートは解雇され、新たなドラマーとしてリンゴが迎えられた経緯があります。仮にピートがそのままビートルズにいたらどうなっていたかを想像するのも興味深いですね。

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9.P.S.I Love You

先程の楽曲・デビューシングルの『Love Me Do』のB面としても知られている楽曲です。B面ながら、個人的にはこちらのほうが私は好きです。

この楽曲のおかげで、宝物を意味する名詞のtreasureという単語は、「大切にする、心にしまう」といった意味合いの動詞でもあることを知りました。また、曲名にもなっている『P.S.I Love You』という表現も味わい深いですね。手紙での追伸を表すP.S.ですが、日本でもビートルズ好きの方々が当時手紙のやり取りをした際に「P.S.I Love You」と最後に付け加えたことが想像されます。現在は手紙ではなくLINEなどが主流となりましたが、それでも使えそうな粋な表現ですね。

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10.Baby It's You

ここでまた、カバー曲の登場です。原曲は再び、先程の5曲目『Boys』を歌ったシュレルズによるものです。私もこちらの記事で取り上げた、バート・バカラックが作曲をしています。やはり原曲のオールディーズな曲調も、良いですね。それをビートルズらしいアレンジにしているビートルズもさすがです。

ビートルズより後の時代では、アメリカの兄妹デュオ、カーペンターズもこの楽曲をカバーしています。妹のカレン・カーペンターのメインボーカルはもちろん、兄のリチャード・カーペンターによる「Baby it's you~♪」の歌声が本当にいい味を出している、カーペンターズらしいしっとりしたアレンジのカバーです。

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11.Do You Want to Know a Secret?

ここで、ジョージ・ハリスンによるメインボーカルの楽曲の登場です。制作は「レノン=マッカートニー」コンビです。出だしの語りのような歌い出しから引き込まれる楽曲ですね。この楽曲も、本当に青春の甘酸っぱさが凝縮されております。

楽曲の中で、曲名になっているsecret、つまり秘密が焦らされながら明かされるのですが、その場面を想像するだけでも微笑ましいですね。曲調も、この秘密が明かされるまでの恋愛の不安定さなどが表現されていると感じます。

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12.A Taste of Honey

全体的にデビューアルバムなこともあり、若々しさを感じるアルバムですが、この楽曲には渋さを感じます。カバー曲で、原曲は同名のイギリスの舞台のために書かれたインストゥルメンタル楽曲であり、それに歌詞がついたレニー・ウェルチという方のバージョンをカバーしたようです。今回初めてレニー・ウェルチのバージョンを聴いてみましたが、やはり渋い。大人の魅力を漂わせた楽曲ですね。「A taste of honey~♪」という女性のコーラスも良いスパイスとなっております。

若々しい、青春の甘酸っぱさを感じさせる楽曲から、このような大人の魅力漂う、渋い楽曲まで幅広くカバーするビートルズは、やはり初期から幅広い曲調を持つバンドですね。この楽曲でのポールの歌声は、当時はまだ20歳くらいだと思いますが、まるで近年の歌声かのような渋さを感じるのです。現在80歳のポール。これからのご活動も応援しております。

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13.There's a Place

8曲目・『Love Me Do』と似たような雰囲気を感じる伴奏から、これまた別の展開になっていく楽曲です。なんというか、これから先の希望を感じさせる楽曲だと私は感じます。デビューアルバムであるこの当時、世界一のロックバンドと称されるようになるとは思いもしなかったことでしょう。そのような道に向けて、これから向かっていくビートルズのメンバーが想像できます。

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14.Twist and Shout

このアルバムの最後は、こちらのカバー曲です。原曲は、トップ・ノーツというアメリカのR&Bグループによるものです。てっきり、アイズレー・ブラザーズのバージョンが原曲だと認識しておりましたが、これもカバーだったのですね。

トップ・ノーツ版を初めて聴いてみましたが、有名な「Shake it up, baby」というフレーズはあるものの、比較的はっきりと発音しているため「シェキナベイベー」とは聞こえません。ノリノリな、オールディーズを感じる曲調です。

次にアイズレー・ブラザーズのバージョンを聴きましたが、こちらの「Shake it up, baby」は「シェキナベイベー」と聞こえますね。ビートルズ版も、こちらのバージョンをもとにしたのかもしれません。

そしてビートルズ版ですが、イントロから引き込まれるようなフレーズですよね。そしてジョンの力強い歌声。しっとり歌うと哀愁深いジョンの歌声ですが、力強く歌うとこのようなロックンロールな曲調によく合います。コーラスのハーモニーにも、ロックンロール魂を感じます。この楽曲でアルバムが終わるなんて、カッコ良すぎますね。

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以上で、ビートルズのデビューアルバム・『Please Please Me』の曲ごとの感想を終了いたします。最初のアルバムにしてこの完成度、本当に驚きです。オリジナル曲はもちろん、カバー曲も原曲へのリスペクトを忘れない上でビートルズらしさ漂う独自の曲調にアレンジしています。そりゃあ、60年経った今でも変わらず聴かれ続けるバンドになりますよね。

今回の記事でこのアルバムに興味を持った方は、ぜひ一度聴いてみていただけると幸いです。まさに、百聞は一見に如かずです。