1240.【小説】魔法のスプリッツ 第26話
2025/02/26
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魔法のスプリッツ
第26話
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「・・・、ここが最近噂の店か。」
今日も、ヴェネツィアのサンタ・マルゲリータ広場にある飲食店『マリオ・エ・ルイージ』を初めて訪れる客がいる。
40歳くらいのその男は、グレーのTシャツの上に黒のダブルライダースジャケットを羽織り、味のある色落ちをしたブルージーンズに白のつま先が尖った革靴という風貌である。背丈は190cmくらいはある大きな男だ。
男は、ドアを開けた。
「魔法のスプリッツが飲める店はここかい?」
マリオとルイージはその訪問に驚愕した。
「うわぁ・・・、ブオングスタイオ・フランチェスコだ!本物だよ!」
「まさかフランチェスコがここに来るとは・・・、それだけ評判になったんだなぁ。」
「・・・ボクが行ってくるよ。」
「気難しい人だろうから、気をつけてくれよ。」
この大きな男は、ブオングスタイオ・フランチェスコという名前で活動している。ブオングスタイオとは、「美食家」「グルメ」という意味のイタリア語である。フランチェスコはよくあるイタリアの男性名なので、「グルメのフランチェスコ」といった意味合いだ。
フランチェスコは、イタリア中の様々な飲食店を訪問し、雑誌やインターネット(ブログ・SNS等)で紹介をしている。今どきの表現では、「グルメ系インフルエンサー」と言える人物である。フランチェスコはそれぞれのお店を正直に評価することで知られており、その歯に衣着せぬ物言いが面白いと多くの人々からの人気を集めている。
マリオは、フランチェスコのもとへ向かった。
「いらっしゃいませ。ご注文はいかがなさいますか?」
「まずはこの魔法のスプリッツをいただこうか。カンパリで頼む。」
「かしこまりました!」
するとマリオはすぐに厨房へ向かった。
「やっぱり魔法のスプリッツの注文がきたよぉ!」
「ついにフランチェスコにも魔法のスプリッツが知られるようになったか・・・。気に入らなかったら辛口に批評する男だからなぁ・・・。どうなることか。」
ルイージは、いつものように魔法のスプリッツを作った。それをマリオがフランチェスコのもとへ運ぶ。
「お待たせいたしました。魔法のスプリッツです。」
「うむ。」
フランチェスコは険しい顔でグラスを見つめている。
しばらくすると、グラスの香りを確認した。ここでも表情は曇っている。
「うわぁ・・・、フランチェスコはなんて言うだろうなぁ。」
「好みは人それぞれだ。フランチェスコが気に入らなくたって、俺たちはいつも通りやればいいんだ。」
再びマリオとルイージが厨房からフランチェスコに注目している。
そして、フランチェスコはグラスに口づけて魔法のスプリッツを少量口の中に入れ込んだ。その赤い液体は、フランチェスコの舌の中でゆっくりと転がされている。
・・・フランチェスコはやはり渋い顔をしている。
「あの・・・、いかがでしょうか。」
再びフランチェスコのもとに行ったマリオは、このように尋ねた。
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つづく
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