1230.【小説】魔法のスプリッツ 第21話
2025/02/21
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魔法のスプリッツ
第21話
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マリオは、今日はヴェネツィア本島を出ての買い出しに出かけている。
ヴェネツィア本島は、いかにもヴェネツィアといえる歴史的な建物がそこら中にあり、現代でもまるでタイムスリップしたような感覚に陥ることがある。
しかし、本島を出てリベルタ橋を渡り大陸へ上陸すると、そこはメストレという地区である。
メストレではヴェネツィア本島とは大きく異なり、現代的な建物がたくさんある上に自動車もたくさん通行している。
メストレ地区とヴェネツィア本島を結ぶ3850メートルの長い長いリベルタ橋は、まるでタイムマシンのようである。
「やっぱり、メストレは現代的だなぁ。」
マリオはそう呟いた。ヴェネツィア本島に住んでいると、メストレの街並みが非常に現代的に感じる。たとえ数十年前の建物であってもそうだ。ヴェネツィア本島の建物は数百年前からあるものが多いのだから。
何店舗かまわって食材を色々と買い出した後に、マリオはとある店を訪れた。
「チャオ、ビアンカ!」
「チャオチャオ、マリオ!今日はどうしたの?」
メストレで花屋を営む女性・ビアンカのお店にやってきた。
「もうすぐマンマの誕生日だから、今年も花束を贈ろうと思っているんだ。」
「そういえばそういう時期ね。今年もマルゲリータの花をいっぱい使ったアレンジメントでいいかしら?」
「うん、よろしく頼むよ。」
マルゲリータは、イタリアでは花の名前でもある。日本語ではヒナギク、英語ではデイジーと呼ばれている花だ。
そしてマルゲリータは人名でもある。マリオの母親も、マルゲリータという名前である。ということで、母親の誕生日には毎年マルゲリータの花を中心とした花束を贈っている。
ただ、マリオがヴェネツィアのサンタ・マルゲリータ広場に店を出しているのは偶然だそうである。そもそも店がある土地はルイージが叔父から譲り受けたものだ。
「マルゲリータさん、元気にしてるのかしら?」
「僕も店が忙しくてあまり顔を見せられてないからわからないけど、連絡を取り合っている限りは元気だよ。」
「それは良かった!」
家族の状況は人それぞれではあるが、一般的にイタリアの男性は特に母親想いである。マリオもその例に漏れず、いつも母親のマルゲリータを気遣い、誕生日には毎年必ず花束を贈っている。
マルゲリータは、ヴェネツィアから少し離れたパドヴァという街に住んでいる。マルゲリータの夫、つまりマリオの父親のフィリッポは5年ほど前にこの世を去っており、現在は一人で暮らしている。そのこともあり、マリオは母を気遣ってよく連絡をしているのだ。
マリオは、ビアンカと相談して花束のデザインを決めた。マルゲリータの誕生日はもうすぐである。誕生日当日はマルゲリータがヴェネツィアのマリオの店に来て、マリオが料理を思う存分振る舞うつもりである。
「今年は、マンマに何を作ってあげようかな。」
「マルゲリータさんといつも連絡を取り合っているなら、何が食べたいか聞けばいいじゃない。」
「それが、その場で何が食べられるのかを知るのが好きなんだよ。なんでも食べるから心配いらないって。」
「そういえば、噂で聞いたわよ。魔法のスプリッツ。マリオの店で評判なんだってね。」
「そうか・・・スプリッツに合うものをいろいろと作るかなぁ。」
しばらくマリオはビアンカと話して、店を出た。
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つづく
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