1226.【小説】魔法のスプリッツ 第19話
2025/02/19
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魔法のスプリッツ
第19話
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マルコは、いつものようにジュデッカ島にある学生寮の部屋で目覚めた。
今日は期末テスト当日である。
「チャオ、フランチェスコ!」
「チャオ、マルコ!」
今朝の寮の受付には、フランチェスコという男性職員がいた。
この受付でだけの関係なので、フランチェスコはマルコが今日大事な試験だということは知らない。だが、マルコを笑顔で送り出した。
ルーティンとなっている自販機のカプチーノを飲み干したマルコは、ヴァポレットの停留所へ歩き出した。
「あ、チャオ、マルコ!」
「チャオ、ジュリア!今日は期末テストなんだよ。」
「奇遇ね。私も今日テストだよ。狼教官の。」
同じ寮に住むジュリアとは学部が違うのでマルコは「狼教官」と呼ばれているガンディーニ教授に会ったことがないものの、その厳しさは有名である。そのフルネームはルーカ・ガンディーニだ。ファーストネームの「ルーカ」が「ルーポ」(狼)に似ていることからも狼と呼ばれているのかもしれない。
「「イン・ボッカ・アル・ルーポ!」」
二人は同時に、「狼の口に言っておいで!」と直訳できる「幸運を祈る」「頑張れ」という意味のイタリア語のフレーズを言った。それにしても「イン・ボッカ・アル・ルーポ」・・・、まるでファンタジーに出てくる呪文のようだ。
「「クレーピ!」」
そのお返しの「狼なんてくたばっちまえ!」という意味の言葉も、二人は同時に発した。二人は笑顔になっていた。
「でもね、狼教官ね、最近なぜか優しくなってきてるよ。」
「へぇ、そうなんだね。何かいいことでもあったのかな。」
「詳しいことはわからないけど、カンポ(サンタ・マルゲリータ広場)で狼教官を見た他の学生が、上機嫌な狼教官だった、って話してたよ。」
マルコは、もしかして狼教官も魔法のスプリッツを気に入ったのかな、と思ったがここでは黙っておいた。
その後もヴァポレットでジュリアと話してから、マルコはやはりザッテレ停留所で降りて、大学まで歩き出すのであった。
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つづく
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