1220.【小説】魔法のスプリッツ 第16話
2025/02/16
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魔法のスプリッツ
第16話
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マルコは、ミケーレと一緒に期末テストのために大学図書館で勉強している。大学図書館はいくつかあるが、マルコが住むジュデッカ島から本島に上陸してすぐのザッテレという地区にもある。
ミケーレはザッテレと反対側にある岸の、フォンダメンテ・ノーヴェという地区あたりに住んでいる。ザッテレまではなかなかの距離があるが、マルコとは仲が良いのでここまで来ている。
テスト期間が近づいてくると、大学図書館は大盛況だ。テスト勉強をする学生で席がいっぱいになる。このこともあり、大学図書館の席の空き状況がわかるスマートフォンのアプリも開発されているほどである。
「遠くまで来てくれて大丈夫なのかい?」
マルコが小声でミケーレに尋ねた。
「ザッテレの図書館は席が多いし広いから好きなんだよ。」
「確かにここは広いよね。」
他の学生たちも、このように小声でやり取りをしている。大声で話をすると、冷たい視線が四方八方から飛んでくることになるからだ。
「チャオ、キアーラ。」
「チャオ、ジャンパオロ。」
男女の学生が、小声で挨拶をしながら接吻を交わした。イタリアでは図書館内ですら挨拶代わりにキスをすることがある。我々日本人には異様な光景であるが、これがイタリアの文化なのである。
ちなみに、日本人をはじめとしたアジア人にはこういった習慣はないことを理解しているのか、アジア人にはこのような挨拶は遠慮がちな印象だ。
「フ゛゛ウ゛ゥ〜ン゛」
近くに座っている女子学生が、思いっきり鼻をかんだ。
日本では大きな音を出して鼻をかむことは奇妙だという傾向にあるが、イタリアでは鼻を思いっきりかむことが正しいとされる。逆に鼻をすする音が忌み嫌われることが多い。仮にこういう場で鼻をすすろうならば、やはり四方八方から冷たい視線が飛んでくるかもしれない。
「デモーネが穏やかになったからといって、油断をしてはいけないよ。」
「そうだな。まぁこれだけやれば大丈夫だろう。」
数時間図書館に滞在したのち、二人は図書館を出て、サンタ・マルゲリータ広場へ向かった。
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つづく
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