1215.【小説】魔法のスプリッツ 第14話
2025/02/14
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魔法のスプリッツ
第14話
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また別の日である。今度はルイージが買い出しに行っている。
ルイージが訪れたのは、リアルト橋の近くにあるお店だ。
リアルト橋もヴェネツィアの有名な観光スポットであり、その周辺には様々なお店が軒を連ねている。
「チャオ、レオナルド!」
「チャオ、ルイージ!」
この食材店の店主・レオナルドが笑顔で出迎えた。
ルイージとレオナルドは幼馴染であり、この店を懇意にしている。
「最近俺の店でスプリッツがやたら売れてるんだよ!」
「ここはヴェネツィアだ。本場のスプリッツが人気あるのは当たり前じゃないか?」
「そうだと考えても、異常な売れ行きなんだよ。」
「へぇ・・・何かあったのかい?」
「ある学生が、俺の店のスプリッツを飲んでその味に感動して『魔法のスプリッツ』だと言ってくれたんだ。いいフレーズだなぁと思ってそのままメニューの名前にしたら売れ行きがこれまでと比べて大幅に増えたんだ。」
「魔法・・・変なものは入ってないよな?」
「もちろんさ!俺はレオナルドのとこから基本的に食材を仕入れてるしなぁ。」
「マリオのほうは、どうなんだい?」
「・・・大丈夫だと思うよ。」
読者の皆さま、安心していただきたい。至って真っ当なレシピで作られたスプリッツである。ただし、製法は企業秘密だそうだ。
「そういや、新しい炭酸水が入荷したんだよ。ルイージ、飲んでみるか?」
炭酸水はスプリッツにも用いられる。ルイージは興味を持った。
レオナルドは炭酸水をグラスに注いだ。トボトボ流れる水の音や炭酸の泡の音が気持ちいい。レオナルドはグラスにこだわりがあり、ヴェネツィア本島から少し離れたムラーノ島で製造されている『ヴェートロ・ディ・ムラーノ』(ムラーノのガラスという意味)と呼ばれるガラスのグラスをいくつも所有している。
『ヴェートロ・ディ・ムラーノ』は、日本ではなぜか『ヴェネツィアン・グラス』と呼ばれている。ヴェネツィアンなる言葉はどの国にも存在しない。ヴェネツィアのものだということを指す単語は英語だとヴェニーシャンだし、イタリア語だとヴェネツィアーノである。
あれこれ述べても、日本では奇妙な『ヴェネツィアン・グラス』という呼び名が一般的なので、以降は『ヴェネツィアン・グラス』と表記する。
「あれこれ難しいことはいいから、飲んでみなよ。」
青みがかったグラスに注がれた炭酸水は、まるで生きているようである。
「んじゃ、いただきます。」
するとすぐに、ルイージはグラスいっぱいに注がれた炭酸水を一気に飲み干した。
「相変わらず良い飲みっぷりだなぁ。」
「喉越しがいいねぇ!俺の喉が喜んでいるよ。」
「それは良かった!炭酸水、これにしてみるかい?」
「だが・・・スプリッツに入れるとなると、今のままがいいかもしれない。」
ルイージは自分の好みと、それが店で受け入れられるかどうかを分けて考えている。
「そうか・・・、わかった。これまでと同じ炭酸水にするんだな?」
「店ではそうするが、個人的に新しいのも1箱くれ。気に入った。おすすめありがとよ、レオナルド!」
「はいよ!」
その後もルイージとレオナルドは談笑しながら、様々な品物を売買していったのであった。
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つづく
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