1207.【小説】魔法のスプリッツ 第11話
2025/02/11
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魔法のスプリッツ
第11話
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シモーネ・ジョルダーノ教授は、大学での授業を終えて帰路につくところだった。
「腹が・・・減った。」
この日は妙にお腹が空いてしまった。そのことが顔にも出ている。
大学内、殊に授業中は厳しく真剣な表情をしているので学生たちから「デモーネ(デーモン)」とあだ名されているくらいなのだが、大学を出るとお茶目なジョルダーノ教授である。
大学キャンパスを出て、しばらく歩いてサンタ・ルチーア駅の近くに来た。
「う〜ん、今日はこの辺の気分じゃないなぁ。」
再び歩いて、コスティトゥツィオーネ橋を渡りローマ広場の付近に来た。
「この辺でもないなぁ。」
更に歩いて、普段はあまり立ち寄らないサンタ・マルゲリータ広場に来てしまった。
ここには学生たちがたくさんいるが、ジョルダーノ教授は大学内とはまるで別人のような表情をしているので気づかれない。
「魔法のスプリッツ・・・面白そうだなぁ。ここにするか。」
ジョルダーノ教授は、引き寄せられるように『マリオ・エ・ルイージ』に入っていった。
「いらっしゃいませ!」
緑の格好をしたマリオが迎え入れた。
「この魔法のスプリッツと、ピッツァ・ディアボラをください。」
「スプリッツに入れるリキュールはどれにしますか?」
「セレクトで。ピッツァと同時によろしく。」
ジョルダーノ教授は比較的苦めな味わいのリキュール『セレクト』でスプリッツを注文した。白髪で白髭に蝶ネクタイが似合う風貌をしているジョルダーノ教授らしく、渋い「セレクト」である。
「ほぅ・・・楽しそうな雰囲気のいい店だ。」
ジョルダーノ教授は、お店の雰囲気を味わうことが好きである。
「セレクトでの魔法のスプリッツと、ピッツァ・ディアボラです。」
「グラッツィエ。」
ディアボラとは、イタリア語で「悪魔」という意味である。ジョルダーノ教授のあだ名「デモーネ」も悪魔という意味だが、こちらは英語にするとデーモン、ディアボラは英語にするとデビルという違いがある。
ジョルダーノ教授は自身が「デモーネ」と呼ばれていることを知らないのだが、偶然にもこの悪魔的おいしさのピッツァが好きだ。ピッツァ・ディアボラは、唐辛子や辛いサラミがトッピングされていることが特徴の辛いもの好きにはたまらないピッツァだ。
「よし、空腹でたまらない。食べるとするか!」
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つづく
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