山田隆一公式サイト

301.小説『ありがと~い!』第61話 大家サンと野球帽に、ありがと~い!

2023/08/22

※こちらのカテゴリでは自由な物語を書いていきます。こちらのカテゴリに書いてあることは基本的にフィクションです。登場する人名・地名・商品名などの名称は例外を除き架空のものです。

...

大井誠は、今日も家を出た。

今日は黒の半袖Tシャツに黒の少し色落ちしたジーンズ、黒のローカットスニーカー、そしてアメリカ製の黒のバケットハットという装いだ。坊主頭の大井なので、帽子がよく似合う。

「大井くん、おはよう。良い帽子ですね~!」

いつものように、大家さんがアパートの入口の掃除をしていた。

「大家サン、おはようございま~す!大家サンの帽子も良~いですね!今日は暑そうなので、お気をつけくださ~い!」

大家さんは、紺色の野球帽を被っていた。どの球団かというと、もちろん鶴咲タートルズだ。そのロゴがプリントされている。鶴咲の人々は、もちろん地元のタートルズファンがOi!もとい、多い。

タートルズは、鶴咲の繁華街、亀んまちが由来となっている。鶴咲と合わせて鶴亀となり、縁起が良い球団名だ。現在は鶴咲出身で、鶴咲大学野球部から昨年ドラフト指名を受けてタートルズに入団した後藤清輔(ごとうせいすけ)投手が特に地元人気が高い。

また、タートルズはその名の通り、遅咲きと言える球団だ。もともと戦後間もない頃に鶴咲市民有志が立ち上げた球団だったのだが、長年弱小球団と呼ばれていた。しかし、後藤清輔選手の祖父である後藤清太郎(ごとうせいたろう)名誉監督が若い頃は選手、その後長年監督として尽力し、1987年にプロ野球の球団の一つにまで登りつめた。2000年には後藤清輔選手の父、そして後藤清太郎名誉監督の次男にあたる現在の後藤清次(ごとうせいじ)監督がエースとして活躍し、初優勝を成し遂げた球団でもある。

こういった経緯があるので、鶴咲のタートルズファンは、後藤清輔選手の活躍により2回目の優勝を期待している、といった具合だ。後藤家は祖父から孫まで三世代で大きな貢献をしているので、タートルズファンにとっては伝説となっている。

「今日もタートルズを応援しながら、アパートの周辺をきれいにしますよ。大井くんも、暑さに気をつけてね!」

「ありがとうございま~す!大家サンのタートルズ愛に、力をいただけますよ~!」

60代くらいの大家さんは、子どもの頃に後藤清太郎名誉監督が現役で選手だった時代を知っている世代だ。そういう世代は特に、熱心なタートルズファンがOi!、もとい、多い。

「(よし、今日は授業はないけど音楽サークルでベースの練習をするぞ~い!)」

こうして大井は、大学へ向かうのであった。

...

つづく