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217.外国出身力士の、日本語のうまさの秘密。【書籍紹介『外国人力士はなぜ日本語がうまいのか』宮崎里司 著】

2023/07/16

私は最近相撲に強い興味が出てきているのですが、全力でぶつかり合う力士たちの迫力ある取組はもちろんですが、語学にも関心があるため外国出身力士の日本語が上手なことにも関心があります。

私自身、英語やイタリア語をはじめとする様々な外国語を学んだ経験からわかるのですが、日本語は非常に複雑な言語で、世界的にもトップクラスの難易度だと思います。我々日本人が外国語を習得することに困難を抱えることがよくありますから、逆に外国出身の方々が日本語を習得するのも簡単なことではないことが想像できます。

しかし、外国出身の力士の方々は日本語をかなりのレベルまで習得しています。本当に上手な方は、一見日本で生まれ育ったかのように見えるほどです。近年台頭しているモンゴル出身の方々は、同じアジア系なこともあり顔立ちも日本出身の人々とよく似ており、現在様々な力士について調べていて、「この人、モンゴル出身だったのか!」と驚くこともあります。それだけ、日本語はもちろん日本的な振る舞いも習得していることに、驚くばかりです。

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そんな私が抱いていた疑問が、そのまま書名となった『外国人力士はなぜ日本語がうまいのか』という本がありましたので、拝読いたしました。

この本が最初に出版されたのは2001年らしいですので、現在から見るとそこまで目新しいことはないかもしれませんので、レビューを見てみると賛否両論なのですが、現在相撲に興味にもっている私は、興味深く読み進めることができました。

タイトルの答えは、外国出身力士は相撲部屋で生活することにより日本語漬けの環境になり、同部屋の力士や師匠・部屋付き親方・おかみさんなど部屋関係者はもちろん、部屋の支援者、いわゆるタニマチと呼ばれる人々とも日本語で会話することにより上達するというものです。

たしかに「あたりまえ」と言ってしまえば「あたりまえ」かもしれませんが、それだけ相撲部屋の環境は、日本語はもちろん日本的な文化に染まることに適した環境であることがよくわかりました。

私もイタリア留学中は、日本人学生と話すこともありましたが、イタリア人をはじめとした日本人ではない学生と積極的に関わることを試みました。かつても『太陽の塔』で知られる芸術家・岡本太郎がパリに留学した際に、他の日本人は日本人同士で集まっている中、岡本太郎はそうせずに現地に馴染むことを試みた、というエピソードを思い出します。そのようなことなどが書かれていた岡本太郎の著書『自分の中に毒を持て』『自分の運命に楯を突け』も名著ですので、いつか機会がありましたらご紹介いたします。

外国出身力士は各相撲部屋1人だけしか在籍できない、外国出身力士枠があるのは外国出身勢の過剰な台頭を抑制する意味合いはもちろん、同部屋で同じ国出身同士で固まらない、という意味合いもあるのではないか、と勝手に推測してしまいますね。

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また、相撲部屋では実際に使われている「生の日本語」を学べる点にも注目されていました。日本語学校で教えられる日本語は、いわゆる「ティーチャートーク」と呼ばれる日本語学習者でもわかりやすい日本語のため、普段使われる日本語に比べて非常に聞き取りやすいものとなっているため、これだけを習得しても実際に日本語を聞き取ることは難しいものがあることが述べられていました。私も個人的に、外国語を学ぶ際には授業やテキストよりも音楽や映画、ドラマなどで「生の外国語」学ぶことが好きなので、「ティーチャートーク」についての記述は興味深いものがありました。

相撲部屋では相撲界独特のスラング(俗語)を含めた、力士として生活する上で実践的な日本語を実践的に学ぶことができます。外国出身力士がインタビューに応対する際に、力士らしい話し方になっているのは、相撲部屋の方々の言葉遣いから学んだから、と考えることができます。

つまり外国出身力士が日本語がうまいのは、日本語を使わざるを得ない環境である相撲部屋で生活をするから、と言ってしまえばそれだけなのですが、そのことを実際に外国出身の力士たちにインタビューすることにより生の声を取材していることなどからも、読み物として一定の価値があるものだと思えました。

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この本は2001年に出版されたもののため、今となっては平成の大横綱の1人として名前が挙がるモンゴル出身の第68代横綱・朝青龍関がまだ平成12年(2000年)11月の九州場所後を西十両3枚目の番付で臨み11勝4敗で勝ち越し、幕内昇進を決めたばかりの12月でのインタビューの記述もあり、後の平成の大横綱であり、引退した現在もTwitterなどでの発言が話題になることがあり、その魅力的な人柄からバラエティ番組などでもたまにお見かけする朝青龍関の初々しさを垣間見ることができ、微笑ましくなりました。

他にも同じくモンゴル出身の元小結・旭鷲山関や元関脇・旭天鵬関、アルゼンチン出身の元十両・星誕期関や、ブラジル出身の元十両・国東関などにも焦点が当たっております。

語学と相撲の両方に強い興味がある私にとっては、いろいろと読みごたえのある本でした。