山田隆一公式サイト

156.小説『今日も、僕は歩いていく。』第18話 歩く時の、リズム。

2023/06/19

※こちらのカテゴリでは自由な物語を書いていきます。こちらのカテゴリに書いてあることは基本的にフィクションです。登場する人名・地名・商品名などの名称は例外を除き架空のものです。

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今日は、鶴咲にあるヴェネツル地区の鶴丸子広場周辺を散歩する。ヴェネツィアのサン・マルコ広場を模しただけあって、こちらも本当に美しい広場だ。白を基調とした風景に、今日も眼福を得る。

この広場にあるヴェネツィア出身で江戸時代の鶴咲で活躍した商人、ルイージ・モンテカンポの像は今日も観光客を惹きつけている。ん、今この像を見ると、こちらに向かって像が微笑んだように見えたが気のせいだろうな。

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広場の近くの海沿いの散歩道は、デートスポットとして人気がある。今日も一緒に歩くカップルが何組もいる。みんな話しながら歩いているので、歩く速度は遅い。僕はどんどん追い抜いていく。

僕は速く歩いているつもりなのだが、それでも僕を追い抜いて歩く人々がいる。みんな、歩くの速いなぁ。ここで、僕の人間としての競争本能が発動してしまう。

今日も、スタスタと高速で歩く年配女性の方がいた。気を抜いて歩いていたので、僕はすぐにこの方に抜かれてしまった。

ここで面白いのは、生物が本能的に持っているのかもしれない、「負けたくない」という気持ちが働いてしまうことだ。同じ速度で歩けばいいものの、僕は加速し、再びこの方を追い抜こうとしてしまうのだ。

ギアを上げて、先程より高速で歩いた。すると、この方も更に速度を上げて、僕を追い抜かそうとした。結果的に、30秒くらいこの方と並んで歩いているように見える構図となってしまった。シュールだ。

僕はまっすぐ歩き続けたのだが、この方は左の道へと曲がっていったため並んで歩いている状態は解除された。この間、この方とは知り合いではないので一言も言葉を交わさなかったのだが、この方も僕と同じようなことを考えていたのか、それとも何も考えずに歩いていたのかはわからない。

このように、自分のペースで歩けばいいものの、誰かに追い抜かれると「負けたくない」という本能が働く現象は本当に興味深い。

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この散歩道からは、湾になっている海の向こう側に鶴亀山(つるかめやま)が見える。鶴亀山の展望台からは、よく見える鶴咲の街並みをじっくりと眺めることができる。よし、近いうちに鶴亀山に久しぶりに行ってみるか。

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つづく