山田隆一公式サイト

883.【エッセイ】ことわざ・慣用句と、翻訳。【イタリアのことわざ「In bocca al lupo.(イン・ボッカ・アル・ルーポ)」】

2024/07/31

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現在視聴中のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)『虎に翼』にて、とある韓国語の慣用句を誤訳してしまったことが原因の騒動が描かれた。

確かに、ことわざや慣用句はその言語ならではの言い回しだ。文字通り翻訳してしまうと全く違う意味に伝わってしまうおそれがある。

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日本の慣用句と、英訳。

例えば、日本語でも「首を長くして待つ」という言葉がある。「首を洗って待つ」というこれまた異なる意味の言葉もある。

これを英語で直訳すると意味不明である。それぞれGoogle翻訳で訳すと、「首を長くして待つ」は、「Waiting with bated breath」と出てきた。直訳ではないのだが、「息を詰めて待つ」といった意味合いで原文とはニュアンスが異なる。

一方、「首を洗って待つ」をGoogle翻訳してみると、「Wash your neck and wait」と訳されてしまった。直訳なので意味不明である。「覚悟する」などといった意味合いのこちらの慣用句をどう訳すかは、訳者や前後の文脈で異なることだろう。

このように、ことわざや慣用句などはその言語ならではの言い回しなので、うまく訳すことができない。

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興味深い、イタリアのことわざ。

著者がイタリアに留学していた頃に、非常に興味深いことわざを知った。イタリアに留学した経験がある人のほとんどが「アレ」を連想したことだろう。

In bocca al lupo.

こちらの 「In bocca al lupo.(イン・ボッカ・アル・ルーポ)」ということわざだ。

boccaが口、lupoが狼という意味の単語なので、直訳では「狼の口に入れ。」という意味になる。

なんと物騒な言い回しだ、という印象だが、こちらの正式な意味は「頑張れ」「幸運を祈る」といった意味合いになる。何かに挑戦することを狼の口に入ることに例えたのだろうか。

著者も留学中に、試験の前などに現地のイタリア人学生からこの言葉を投げかけられたものだ。

そして、その返答としての決まり文句は、「Crepi il lupo.(クレーピ・イル・ルーポ)」だ。こちらは「狼をやっつけてやる。」という意味になる。実際には短縮して「Crepi.」の一語だけで用いられることが多い。

挑戦することを、「狼の口に入る」ことに例えたので、挑戦がうまくいくことを、「狼をやっつける」ことに例えていると思われる。

本当に興味深い言い回しなので、イタリア留学中に気に入ったものだ。

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こうやって述べたように、各国にそれぞれ興味深いことわざや慣用句がある。それをそのまま訳すと意味不明な表現になりうるので、どう訳すかは訳者がそのことわざや慣用句を理解しているかが問われる。

近年、AI(人工知能)の発達により翻訳技術も向上してきたが、こういったことわざや慣用句などの独特の言い回しは、その言語自体を理解しないと本当に細かい意味合い・ニュアンスがわからないと推測される。

「どう訳すか」を意識すると、著者の母語である日本語のことわざや慣用句も興味深いものだと思えそうだ。

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お読みいただき、ありがとうございました。